昨日、久しぶりに「民本主義」の語を目にした。「民主主義」と言えない事情があったりしたようだったね、と辞書を引いてみた。
例えば『大辞泉』第二版。
大正時代、吉野作造が主唱した民主主義思想。主権在民を内包する民主主義とは区別し、政治の目的は民衆の利福にあり、政策の決定は民衆の意向に従うべきと主張した。その目標は政党内閣制と普通選挙とにあり、大正デモクラシーの指導理論となった。
「区別」が素敵だ。「誰が」、「何のために」区別したのかを追求せず、ただ「区別し」とのみ記す。
みんぽんしゅぎとみんみんぜみvia『大辞泉』 posted by (C)torisan
# 関係ないけど「みんぽんしゅぎ」と「みんみんぜみ」が仲間に見える
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『日本国語大辞典』からは、民主主義との「区別」に関連する部分のみ引く。
人民主権を意味する民主主義と区別して用いられ、憲政の実際面で「人民のための」政治を実現しようとしたもの。
「実際面」での効果を期待して用いられた言葉。 「実際面」というのも、何かをごまかすためではなく、命がけで「効果」を狙ったものだった。現在の解釈改憲などとはちょっとレベルが違うように思う。
広辞苑からも同様に一部引用。
主権の所在には触れず、その運用の民主化を主張
事実を見事に客観化できてると思うけれどどうだろう。
たとえば署名して「論」を明らかにする百科事典などとは一線を画す所。『日本大百科全書』の一部を見てみる。
民本主義は天皇制と帝国主義との直接の対決は回避したが、それらに対する有効な現実的批判として機能した。
「民本主義」と「直接の対決」をすべき思想があって、その中で「民主主義」ではなく「民本主義」という言葉が活躍したことがわかる。
長くなった。最後に小型辞典での「民本主義」。
『新明解』第七版は「大正時代において、民主主義の称」。ちなみにこれで全文。『岩波国語辞典』第七版・新版でも「民主主義。▷democracyの訳語として、一時行われた語」とあってこれが全文。
『明鏡』第二版がもう少し長く記しているけれど、なぜ「民主主義」 という語ではないのかという説明はない。
辞書と辞典の差や、あるいは小型辞典におけるスペースの削り方などがとても勉強になった(ような気がしている^^)。
ところで『三省堂国語辞典』第六版には「民本主義」はない。「そんな時代の圧力に負けた言葉は載せないぜ」ということなのかもしれないな(自分勝手空想モード突入中)。
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