辞書のページをめくっていると「下り坂」という項目に出会った。
- 作者: 綾小路きみまろ
- 出版社/メーカー: PHP研究所
- 発売日: 2012/08/03
- メディア: 文庫
- この商品を含むブログを見る
眺めていたのは『ベネッセ表現読解国語辞典』だ。
(1)進むにつれて下がっている坂道。
驚いた。まず、あまりに「当たり前」だ。そしてちょっと考えると、振り返れば「登り坂」になる。すなわち「下り」というのは瞬間的な現象(?)に過ぎない。
なぜこんな言葉が立項されているんだろうと思ったけれど、続きがあった。
(2)物事が最盛期、絶頂期を過ぎてしだいに衰えていくこと。 (3)天候がしだいに悪くなること
なるほど。この2番めの用法を示したかったんだな。「張本も下り坂だな」というような用例から、「下り坂」を立項する必要性を感じた。ただ、立項するのであれば、本来の用途にも触れないわけにはいかない。
他の辞書ではどうだろうと見てみると、たいてい「下り坂」は立項されている。1番目の語釈だけあげてみる。
だいたい同じか。2番めの語釈もだいたい同じ。
- 作者: 嵐山光三郎
- 出版社/メーカー: 新講社
- 発売日: 2009/09
- メディア: 単行本
- クリック: 1回
- この商品を含むブログ (3件) を見る
興味深いのは、 『ベネッセ表現読解国語辞典』にある3番め。「天候がしだいに悪くなること」。『明鏡』なども、3番めとして天気が悪くなることという語釈をしている。
これは別に説明している辞書と、それから2番めの「衰えていく」の意味における例文として扱っているものとに分かれるみたい。
たとえば『広辞苑』第六版。
物事の盛りが過ぎて衰えてゆくこと。「天気は—」
雨が降ることを「天気が悪くなる」というと怒る人がいたな。 「お百姓さんにとっては必要なんです!」とか。必要としている人がいるのに「悪くなる」と言ってはいけないという意味。一時期、そういう「配慮表現」が流行ったことがあった。
- 作者: 土井晩翠
- 発売日: 2012/10/04
- メディア: Kindle版
- この商品を含むブログを見る
あるいは『ベネッセ表現読解国語辞典』なども「配慮表現」のつもりなのかもしれないな。
雨が悪いなんてことは言ってませんよ。善悪の価値判断を取り除いて、それでも雨が降ることを「下り坂」というのです。もしかすると低気圧が雨を運んでくるからかもしれません。
美しい配慮、、、という意図ではなかろう、もちろん。
- 作者: 山岡政紀,牧原功,小野正樹
- 出版社/メーカー: 明治書院
- 発売日: 2010/02
- メディア: 単行本
- 購入: 1人 クリック: 1回
- この商品を含むブログを見る