気になる言葉 on 国語辞典

つい気になった言葉など、辞書で引いてみる

「エロチシシズム」を巡る愉快な冒険

言葉というよりも、語釈がともかく面白い。

ツイート中では「エロティシズム」と書いたけれど、正確には「エロチシズム」だな。「ティ」より「チ」の方が「昭和的」で素敵だ。

言葉としてももう一度載せておこう。

エロチシズム
男女間の性愛に関すること、そういうもの。性愛。

一見、何を言っているのかよくわからないあたりが楽しい。「そういうもの」ってなんだよ。最初に出てくる「性愛」と、最後に単語だけ挙げられる「性愛」にはどういう思い入れがあるんだよ。

エロティシズム (ちくま学芸文庫)

エロティシズム (ちくま学芸文庫)

 

(どわ。バタイユは文庫になってるのか)。

辞書の話に戻ると『日本国語大辞典』の例文も楽しい。たとえばこんな具合。

赤い孤独者 〔1951〕〈椎名麟三〉一・六「僕は、彼女の歩き方に、あるエロチシズムのあることを見た。細い身体が左右に柔かくねじれるように歩くのだ」

エロチシズムを感じるのではなく、「ある」ことがすごいじゃないか。あるいはこんな具合。

風媒花〔1952〕〈武田泰淳〉一「『時代の花』ね。あれですか。桂さんの代表作は。〈略〉あれはしかし、エロティシズムに逃げてるなあ。恋愛メロドラマでしょ」

何かに逃げているという批評は一時代を築いたものだった。

風媒花 (講談社文芸文庫)

風媒花 (講談社文芸文庫)

 

あるいは『角川類語辞典』なんかも面白い。 

13 【エロチシズム(えろちしずむ)】eroticism 強烈な―を感じさせる ○愛欲に関すること
14 【アバンチュール(あばんちゅーる)】aventure仏 ―を楽しむ ○危険を冒す恋愛。火遊び

「アバンチュール」とか「火遊び」とか。一時はとてもはやった言葉だ。最近あまり聞かないように思うな。恋愛の世界ではもう「アバンチュール」と称されるようなものはなくなってしまったのかもしれない。今ある恋愛世界での危険は「ストーキング」か。

「火遊び」という言葉は、恋愛に限らず失われてしまったような感じもする。 

あるいは『角川類語辞典』には「~イズム」用語も列挙されていて、これも楽しい。

辞書中ではそれぞれの語に説明がついている。ちょっと説明の難しい「トリビアリズム」を引いておこう。

○瑣末主義。ごく平凡なことをさも重要そうに扱う考え方。小説ではうその話を本当らしく見せかける逆説的効果を生む。

意味がよくわからないままに「そうかっ!?」と突っ込みたくなるあたりがスゴイ。 

しかしまあ、『岩波国語辞典』の破壊力が一番だったかな。 

「エロ」で、大いに楽しい時間を過ごさせてもらった。

岩波 国語辞典 第7版 新版

岩波 国語辞典 第7版 新版

 
辞書の仕事 (岩波新書)

辞書の仕事 (岩波新書)