『BT'63』(池井戸潤)という本を読んでいると、次のようなフレーズがあった。
小銭をじゃらじゃら言わせるがさつな音に混じり、腕抜きをした銀行員たちが忙しそうに立ち働いていた。
なるほど。サザンオールスターズのおかげで80年代にリバイバルブームになりかけた(偽記憶かもしれない)、腕に装着する事務用品は「ウデヌキ」と呼ぶのか。
辞書を見ると確かに「ウデヌキ」がある。但し、漢字では「腕貫き」と書くようだ。『広辞苑』第六版を見る。
うで‐ぬき【腕貫】
(1) 二の腕にはめて飾りとする環。うでわ。
(2) 労働する人などの用いる、腕を包む布。
(3) 腕に長くはめる布製の筒。事務をとるとき袖口のよごれを防ぐために用いる。正倉院に写経生の遺物がある。竹で編んだものもある。
(4) 刀の柄頭・鍔(つば)につけ、手首を通す緒の輪。
(5) むちの柄の端につけた紐の輪で腕首を入れる所。ぬきいれ。
(5) 槍の石突きにある穴。
(7) 「うでぶくろ」に同じ。
たいていの小型辞書には載っていない様子。
しかし「腕貫き」という名前はわかりにくく感じてしまう。「指貫き」というものを知らなければ「腕貫き」で該当品を想像することもできないだろうと思う。
「貫」に「とおす」という意味があるので、「指をとおすもの」「腕をとおすもの」ということなんだろう。
ちなみに事務時に用いる「腕貫き」(上の『広辞苑』語釈では3番目)には別の言い方もある。ひとつは「腕カバー」。これは『広辞苑』では空項目になっていて「袖カバー」に飛ばされる。「袖カバー」の方を引く。
そで‐カバー【袖カバー】
洋服の袖口からひじあたりまでをおおう、布で作った筒状のもの。事務作業中に袖口がよごれるのを防ぐのに用いる。腕カバー。アームカバー。
なるほど、そういう言葉も耳にした記憶があるように思う。しかし『広辞苑』、「腕貫き」とは全くリンクせずに立項しているのが興味深い。
と、思ったら『日本国語大辞典』でも「腕カバー」と「腕貫」はリンクしていないんだな。 違う形で発達してきたものだったりするのだろうか。
BT'63はこんなの。池井戸潤はあまり読んだことがない。銀行員が権力争いに負けて云々という話にはあまり興味がもてそうにないので、ちょっと毛色が違っていそうなこの本を読んでみているところ。