『岩波国語辞典』を眺めていると「タガメ」の項が目にとまった。漢字が「田亀」になっているのだ。
たがめ【田亀】体長6.5センチほどの、こおいむし科の昆虫。成虫・幼虫ともに田や池沼に住み、小魚や他の昆虫を捕らえ、くちばしでさして体液を吸う。養魚上有害。どんがめ。こうやひじり。かっぱむし。
「そうか、田にいる亀ににた虫だからタガメというのか!」と思った。ただし「タガメ」に「田亀」の字をあてる辞書が少ないのだ。
たとえば同じ岩波であるにもかかわらず『広辞苑』は「田鼈」の字を用いる。「鼈」は「すっぽん」で、まあ亀ではあるのだが微妙に違う。他の辞書も広辞苑同様に「鼈」の文字を使うことが多い。
『岩波国語辞典』は勇み足なのかなあと思ったところで『三省堂国語辞典』を見た。これも「田亀」としている。さらに語釈も独創的だ。
たがめ[田亀]
田や沼にすむ大型の昆虫。前足が大きく、背中がカメのようなかっこうをしている。
「亀のようだから『田亀』なのだ」と主張している辞書はなかなかみあたらない。
たいていの辞書は「カメムシ目」であることから「タガメ」と呼ばれるとしている。まあ「カメムシ」もたどれば「亀」につながるから同じような意味かもしれないけれど、「カメムシ」を飛ばして「カメ」につなげる『三省堂国語辞典』はなかなか男らしい。
『三省堂国語辞典』は昔からそのような語釈なのかなあと第四版を見てみた(現在は第七版)。すると第四版ではそもそも「タガメ」は立項されていなかった。第六版は第七版と同じだった。
さて、『三省堂国語辞典』が「たがめ」を立項した理由はなんなのだろう。そして比較的マイナーな「田亀」を採用した理由はなんなんだろうな。
ちょっと気になるところではある。