辞書の「恋する」はなかなかおもしろい。たとえば『大辞泉』なら次のような感じ。
こいする【恋する】
〔動サ変〕恋をする。慕う。
「恋する」の意味が「恋をすること」と言われるとちょっとむっとしてしまうけれど、多くの辞書がこんな感じ。
もちろんこれは手抜きでもなんでもなく、「恋」の項目をみてみてね、ってことだ。
で、「恋」を見てみた。写真は『新明解』。結構有名な語釈だ。
こい【恋】
特定の異性に深い愛情をいだき、その存在が身近に感じられるときは、他のすべてを犠牲にしても惜しくないほどの満足感・充足感に酔って心が高揚する一方、破局を恐れての不安と焦燥に駆られる心的状態。
大げさなのかどうかはともかく、すでにこんな語釈を目にすると緊張してしまうような時代になったな。もちろん気になるのは「異性に対し深い愛情をいだき」の部分。
社会が性的マイノリティを意識するように変化しつつあるからだ。ふと気になって他の辞書も見る。『岩波国語辞典』はこんな感じ。
こい【恋】
異性に愛情を寄せること、その心。恋愛。
『明鏡』もみてみようか。
こい【恋】
〘名〙特定の異性を強く慕うこと。切なくなるほど好きになること。また、その気持ち。
こうした語釈がどうやら一般的な様子。
ただ、LGBTを意識したかのような表記をする辞書もある。たとえば『日本国語大辞典』だ。人を恋する意味での「恋」の部分だけひいておく。
こい[こひ] 【恋】〔名〕 (動詞「こう(恋)」の連用形の名詞化)
異性(時には同性)に特別の愛情を感じて思い慕うこと。恋すること。恋愛。恋慕。
小型辞典では、比較的新しい『三省堂国語辞典』第七版にも配慮があるようにみえる。
こい[恋]
(名)人を好きになって、会いたい、いつまでもそばにいたいと思う、満たされない気持ち(を持つこと)。
確か、意図的に性別に触れないようにしたのだと言っていたっけ? なるほどな。「満たされない気持ち」に限定しているところが気になるけれども、これは大昔の用法を意識するうちにこうなっちゃったのかな。
いずれにせよ、これから出る国語辞典では、まず「恋」をチェックするのも面白いかもしれない。
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