気になる言葉 on 国語辞典

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等差数列の「公差」、なぜ「公差」というの?

等差数列の幅(?)を「公差」という。「幅」なんていってもわかんないので、『新明解』から引いておく。

こうさ【公差】
(1)〔等差数列(級数)で〕隣り合う任意の二項の後項から前項を引いた時の差。例、等差数列1・3・5・7…の公差は2。(以下略)。

高校だか中学だか小学校で教わるわけだけど、これ、なぜ「公差」というんだろう。

ちなみに『字通』で「公」をみると次のように書いてある。

[1] 公宮、きみ、祀られる人。
[2] 天子・諸侯・公卿・長老の称、尊称。
[3] おおやけ、公的なもの。
[4] 公平、正しい。
[5] つかさ、つとめ。
[6] 工・功と通じ、しごと、てがら。

「公差」の「公」はどの意味だ?

などと、そんな疑問をもちつつ『日本国語大辞典』などをみるとがっかりしてしまう。悔しくなってしまう。涙しそうになる。「等差数列」的意味の「公差」は3番目に記してある。

(3)等差級数や等差数列で、連続する二つの項の差。

これだけならどうってことはないけれど、出典の部分が悔しい。

*数学ニ用ヰル辞ノ英和対訳字書〔1889〕〈藤沢利喜太郎〉「Common Difference 普通差、公差」

そう、「公差」とは「Common Difference」の訳語であるらしいのだ。「Common」は「一般的」とかそんな意味だから、たしかに「公」かもしれない。Differenceは確かに「差」だ。しかし「Common Difference」を訳して「公差」にしましたよってのには、なんだか納得がいかない。

まあ確かに。ちょっと考えただけでは適当な訳語は浮かばない。でも「Common(公)Difference(差)」というのは、なんかいやだ!

和算などではどのように表現していたんだろうなあ。

ちなみに「公」の意味を『新潮日本語漢字辞典』でも確かめてみた。意味の中に「広く共通してあてはまる」というものがあり、用例として「公式・公理・公準公差…」などと記されていた。

すなわち漢字の用法として「公差」は正しい語なのだろう。でもやっぱりちょっと気に入らないな。ぼくが無知なせいで違和感を感じるだけなのかもしれないけれど。

和算の歴史―その本質と発展 (ちくま学芸文庫)

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