恥ずかしい話かもしれないけれど、「蝕む」を「虫食む」と書くケースがあるということを知らなかった。
持っている人が多そうな『新明解』でみてみる。
むしばむ【蝕む】
(1) 虫が食って損傷を与える。
(2) 悪臭や病気などが、徐徐に健全な心や身体に悪影響を及ぼす。
(表記)「虫食む」とも書く。
もともとの意味も「虫が食う」という意味だったんだな。
『広辞苑』などでは見出しにも「虫食む」の表記を記している。
むしばむ【虫食む・蝕む】
(1)虫が物を食い、形をそこなう。虫食う。虫食いになる。
(2)転じて、体や心を病気や悪習などがそこなう。
現代において一般的に使う「蝕む」の意味は、「転じて」生じたものなのだな。
「病気が心さえをもむしばんだ」よりも「靴下がむしばまれた」という方が、言葉のトラディショナルな使い方であるということになる。
まあ疑問が残らないわけではない。
すなわち、「心が蝕まれる」を、「心が虫食まれる」と書いて良いのかどうか。転じた意味ができたと同時に、用いる文字の方も「蝕む」に転じたのかどうか。
ま、そんなときに頼りになるのは「青空文庫」かな。サイト指定でGoogleってみると、次のような文章が見つかった。
突発的な精神の打撃にはなりませんけれど、その代りに精神を虫食む度合が執拗く、だらだらと生活の張合いを失くしてしまいます。
ふむ。これによると「蝕む」と「虫食む」の表現は常に交換可能であるらしい。
これまで知らなかったのが「恥」かもしれないんだけど、「虫食む」が「蝕む」になるなんて、なんて素敵なんだと感動している土曜日の夜ではある。