『岩波国語辞典』を読んでいて驚いた。「刺客」は「せっかく」と読むのが本来らしいのだ。
せっかく【刺客】
→しかく(刺客)。▷「しかく」は慣用読み。
恥ずかしながらきいたことがない(ような気がする)。
『岩波国語辞典』の「しかく」をみても、「しかく」の読みはあくまでも慣用読みであると記されている。
しかく【刺客】
他人をつけねらって暗殺する(役目の)者。▷「せっかく」の慣用読み。
『明鏡』にも、「しかく」は「せっかく」の慣用読みであると記されているな。
『日本国語大辞典』で「せっかく」をみてみる。
せっ‐かく【刺客】
(「せき」は「刺」の漢音)
暗殺をする人。暗殺者。しかく。
なるほど。たしかに「せっかく」という読み方はある。ただ「漢音」とあるのみで、こちらが正当かどうかについては記述がない(一般的な「漢音」「呉音」の判断、というのはあるにしても)。
ところで『日本国語大辞典』は「せっかく」と「しかく」の双方ともに空項目とせずに語釈を載せている。
「しかく」はこんな感じ。
し‐かく 【刺客】
人を暗殺する人。殺し屋。しきゃく。せっかく。
「暗殺をする人」と「人を暗殺する人」の違いはなんだ。「殺し屋」は「暗殺者」と同じような意味なのかどうか。
なお、広辞苑は4つの読みを記している。すなわち「せっかく」「しかく」「せきかく」「しきゃく」だ。
そして「せきかく」は「せっかく」への空項目、「しきゃく」は「しかく」への空項目となっている。呉音・漢音で分けたのだろうけれど、なんだか不思議な感じだ。
どうやら他にもこうした「空項目関係」がある辞典がありそうだけど(『日本国語大辞典』もそうみたい)、もうめんどうなのでみない。
最後に『三省堂国語辞典』をみる。
しきゃく【刺客】
(1)たのまれて他人を暗殺する人。殺し屋。
(2)〔選挙で〕ねらった候補者を当選させないように送り込む対立候補。
(2)の方は「はやりモノ」風なのでどうでも良い。面白いのは「たのまれて」「暗殺」するという記述(他の辞書も「刺客」の行為を「暗殺」だとするものが多い)。
すなわち自分の恨みを晴らすために他人を付け狙うのは「刺客」でなく、また頼まれて行ったとしても大規模テロのようなケースでは「刺客」と呼ばれないんだろう。
なかなか奥が深い。