『生き物と向き合う仕事』って本を読んでいる(これはそうとう面白い)。その中に、「胃」についての記述があった。
魚類には、コイなどのように胃がない種がいて、それらを総称して「無胃魚」と呼ぶ。胃がないので食道部から消化酵素を分泌し、腸でタンパク質をアミノ酸に、炭水化物はブドウ糖に分解して消化吸収する。
— maeda hiroaki (@torisan3500) 2019年4月12日
via 『生き物と向き合う仕事』(田向健一)
世の中には「胃」のない奴らがいるんだな。
まあ確かに、食道から(さっそく)消化酵素を出して対応するなら、胃は無用かもしれない。「胃」ってのは重要なものなのかどうか。いつものように国語辞典に尋ねてみた。
『広辞苑』をみると、「大事に決まってんじゃん、ぼけ」と言っているようにも見える。
い【胃】
内蔵の一つ。消化管の主要部。上方は食道に、側方は腸に連なり、形は嚢状で、横隔膜の下、肝臓の下方に横たわる。壁は粘膜・平滑筋層・漿膜から成り、最内層の粘膜には胃腺があって、胃液を分泌し食物の消化にあたる。鳥類や一部の哺乳類では二ないし四室に分かれる。
説明が重くて長いのは、大事なモノのことを説明しているからか。
他の辞書ではどうだろう。『三省堂国語辞典』を見てみる。
い【胃】
消化を受け持つ内蔵の一つ。ふくろのような形をしている。
ふむ。こちらは軽い説明だ。消化器官の「主要部」とする『広辞苑』に対し、あくまで「one of them」だよと主張する。さらに、『広辞苑』が重々しく「嚢状」とするところを、『三省堂国語辞典』では「ふくろのような」と、平易な表現を採用してもいる。
両者の「気合の差」が面白いなあ。大御所の『日本国語大辞典』ではどうなっているのか。
い[ヰ] 【胃】
脊椎(せきつい)動物の消化管のうち、食道と腸の間の部分をさす。食道との境界を噴門、腸との境界を幽門という。食物は一定時間ここにとどまり、消化作用をうける。普通、一室であるが、前胃と砂嚢との二室に分かれた鳥類や、四室に分かれた反芻(はんすう)類などがある。無脊椎動物では、中腸であり、食物の一時的貯蔵場所となる袋状の部分をさすことが多い。いぶくろ。
『日本国語大辞典』の意図はわからないけれど、「食道と腸の間の部分」が面白い。『広辞苑』が「主要部分」と言っているのに、『日本国語大辞典』では「間の部分」と表現する。
ぱらぱらと他の辞書もめくっていると、たとえば『新明解』なども「主要部分」と表現している。『大辞泉』は「消化管の一」派。
「胃」に「気合」を入れるかどうか。どういう判断で表現を変えているのか。「勝手読み」するのが結構面白い。