気になる言葉 on 国語辞典

つい気になった言葉など、辞書で引いてみる

「胃」は大事なのか。

『生き物と向き合う仕事』って本を読んでいる(これはそうとう面白い)。その中に、「胃」についての記述があった。

世の中には「胃」のない奴らがいるんだな。

まあ確かに、食道から(さっそく)消化酵素を出して対応するなら、胃は無用かもしれない。「胃」ってのは重要なものなのかどうか。いつものように国語辞典に尋ねてみた。

広辞苑』をみると、「大事に決まってんじゃん、ぼけ」と言っているようにも見える。

い【胃】
内蔵の一つ。消化管の主要部。上方は食道に、側方は腸に連なり、形は嚢状で、横隔膜の下、肝臓の下方に横たわる。壁は粘膜・平滑筋層・漿膜から成り、最内層の粘膜には胃腺があって、胃液を分泌し食物の消化にあたる。鳥類や一部の哺乳類では二ないし四室に分かれる。

説明が重くて長いのは、大事なモノのことを説明しているからか。

他の辞書ではどうだろう。『三省堂国語辞典』を見てみる。

い【胃】
消化を受け持つ内蔵の一つ。ふくろのような形をしている。

ふむ。こちらは軽い説明だ。消化器官の「主要部」とする『広辞苑に対し、あくまで「one of them」だよと主張する。さらに、『広辞苑』が重々しく「嚢状」とするところを、『三省堂国語辞典』では「ふくろのような」と、平易な表現を採用してもいる。

両者の「気合の差」が面白いなあ。大御所の『日本国語大辞典』ではどうなっているのか。

い[ヰ] 【胃】
脊椎(せきつい)動物の消化管のうち、食道と腸の間の部分をさす。食道との境界を噴門、腸との境界を幽門という。食物は一定時間ここにとどまり、消化作用をうける。普通、一室であるが、前胃と砂嚢との二室に分かれた鳥類や、四室に分かれた反芻(はんすう)類などがある。無脊椎動物では、中腸であり、食物の一時的貯蔵場所となる袋状の部分をさすことが多い。いぶくろ。

日本国語大辞典』の意図はわからないけれど、「食道と腸の間の部分」が面白い。『広辞苑』が「主要部分」と言っているのに、『日本国語大辞典』では「間の部分」と表現する。

ぱらぱらと他の辞書もめくっていると、たとえば『新明解』なども「主要部分」と表現している。『大辞泉』は「消化管の一」派。

「胃」に「気合」を入れるかどうか。どういう判断で表現を変えているのか。「勝手読み」するのが結構面白い。


資料篇~人体のふしぎ~(5)消化管

 

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胃と腸 2018年 5月号増刊号 早期胃癌2018

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