気になる言葉 on 国語辞典

つい気になった言葉など、辞書で引いてみる

状況に安んじる「楽天」を批判する『広辞苑』(タイトルはツリ)

妻が「楽天をお友達登録してパンダのスタンプをゲットしたんだと喜んでいた。

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そういえば「楽天」ってのはどういう意味だったかね。なんとなく期待させてくれる『新明解』第七版を見てみた。

曰く「生きることを楽しいと思うこと」。

新解さんの読み方 (角川文庫)

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これにはちょっと異議ありだなあ。どういう状況で楽しいと「思う」のかがよくわからない。

そう思って「ライバル」と一部で言われているらしい(?)『岩波国語辞典』第七版・新版を引いてみた。

と、こちらには項目がなかった(笑)。「楽天家」「楽天主義」「楽天的」はあるけれど、「楽天」はない。まあ、敢えて言えば「楽天的」と同じようなものだろうか。

岩波国語辞典での「楽天的」の語釈は「人生に明るい見通しを持っているさま。物事をよい方に明るく考える傾向であること」。

なるほど。こちらの方が「楽天」の語釈としてもしっくりくる。「見通しを持つ」とか「明るく考える」というところに「主体的な意志」が感じられるからだ。「楽天」はやはり主体的意志の発露であると思うのだ。

意志と表象としての世界〈1〉 (中公クラシックス)

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でもいろいろ見てみて一番納得したのは『大辞泉』第二版だな。

自分の境遇を天の与えたものとして受け入れ、くよくよしないで人生を楽観すること。

「受け入れる」には諦観がある。そして「楽観する」には主体的意志の発露がある。バランスのとれた良い表現なんじゃないだろうか。アパートぐらしで身内が死んだらエレベーターに棺桶が乗らないんじゃないかと悩みつつ、どうにもならないという諦めを表現する戸川純のような感じだ。

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一方で『広辞苑』第六版は「諦観」をちょっと超えて無気力になってしまっている。語釈第2義に曰く

自分の境遇に安んじてあくせくしないこと

ちょっと「むっと」しないだろうか^^? 境遇を「受け入れて」であれば何の問題もない。しかし「安んじて」がなかなか刺激的だ。

文庫 裏読み深読み国語辞書 (草思社文庫)

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