気になる言葉 on 国語辞典

つい気になった言葉など、辞書で引いてみる

「下り坂」を考える

辞書のページをめくっていると「下り坂」という項目に出会った。

眺めていたのは『ベネッセ表現読解国語辞典』だ。

(1)進むにつれて下がっている坂道。

驚いた。まず、あまりに「当たり前」だ。そしてちょっと考えると、振り返れば「登り坂」になる。すなわち「下り」というのは瞬間的な現象(?)に過ぎない。

なぜこんな言葉が立項されているんだろうと思ったけれど、続きがあった。 

(2)物事が最盛期、絶頂期を過ぎてしだいに衰えていくこと。 (3)天候がしだいに悪くなること

なるほど。この2番めの用法を示したかったんだな。「張本も下り坂だな」というような用例から、「下り坂」を立項する必要性を感じた。ただ、立項するのであれば、本来の用途にも触れないわけにはいかない。

他の辞書ではどうだろうと見てみると、たいてい「下り坂」は立項されている。1番目の語釈だけあげてみる。

  • 下り道となる坂(広辞苑第六版)
  • 進むにつれて低いほうへ向かう坂(明鏡)
  • 下りになる坂道(大辞泉第二版
  • 下りになる坂道。坂の下り道(日本国語大辞典

だいたい同じか。2番めの語釈もだいたい同じ。

「下り坂」繁盛記

「下り坂」繁盛記

興味深いのは、 『ベネッセ表現読解国語辞典』にある3番め。「天候がしだいに悪くなること」。『明鏡』なども、3番めとして天気が悪くなることという語釈をしている。

これは別に説明している辞書と、それから2番めの「衰えていく」の意味における例文として扱っているものとに分かれるみたい。

たとえば『広辞苑』第六版。

物事の盛りが過ぎて衰えてゆくこと。「天気は—」

雨が降ることを「天気が悪くなる」というと怒る人がいたな。 「お百姓さんにとっては必要なんです!」とか。必要としている人がいるのに「悪くなる」と言ってはいけないという意味。一時期、そういう「配慮表現」が流行ったことがあった。

あるいは『ベネッセ表現読解国語辞典』なども「配慮表現」のつもりなのかもしれないな。

雨が悪いなんてことは言ってませんよ。善悪の価値判断を取り除いて、それでも雨が降ることを「下り坂」というのです。もしかすると低気圧が雨を運んでくるからかもしれません。

美しい配慮、、、という意図ではなかろう、もちろん。

コミュニケーションと配慮表現―日本語語用論入門

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