『大言海』を見ていた。「さしみ」(刺身」のところに語源についての説明があった。
刺身の教科書―基本のおろし方から新しい刺身料理の作り方まで徹底解説
- 作者: 鈴木隆利
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〔切るヲ忌ミテ、刺すト云フカ、作るト云フモ、同ジカルベシ、みハ、肉ナリ〕
「切る」という語がちょっと縁起が悪いので、「刺す」という言葉に替えたのだと。「刺身」の語が生まれたのは武家社会が隆盛する室町時代らしいので、「切る」を「忌んだ」ということはあるのかもしれない。
現代風に言えば「スルめ」を「アタリめ」というのと同じ流儀だ(落語の世界では「スリッパ」も「アタリッパ」になる)。「おつくり」などと言うのも「切り身」なんて言葉で表現するのが嫌だからということだ。
但し、大言海の語源記述は怪しいものが多いという話もある。
他をあたってみよう、と思ったが、中型以下には語源などないようだ。『日本国語大辞典』を見る。
(1)料理の一種。新鮮な生(なま)の魚肉などを薄く小さく切って、醤油(しょうゆ)、酢などにつけて食べるもの。うちみ。つくりみ。
「うちみ」ってなんだよ。そう思うと「語誌」欄では「うちみ」の語誌をみよと書いてある。
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「うちみ」を見てみた。漢字は「打身」。
(1)料理用語。
(イ)さしみ。特に鯉または鯛の左側の身。
(ロ)式三献の生魚肉。または、二の膳。
理解しようとしても大変そうなので「語誌」欄を見る。 長くなるけれど、ぜひとも全文を引いておきたい。
(1)(1)は、元来、魚を三枚におろしたときの左半身(はんみ)を意味した。語源について、狂言の「鱸庖丁」の台詞から、魚肉を切ってはまな板に打ちつけて製するための称とする説がある。
(2)「厨事類記」の「鳥左鯉右とは。鳥は左よりきる。鯉は右よりをろすがゆへ也」によれば、三枚におろす折に最初に切り離される右半身の「ひきみ」に対して、まな板に打ちつけられる左半身というところからの名称とも考えられる。
(3)「うちみ」は、次第に式三献の際の生魚肉の総称となり、さらに、式三献における二の膳をも意味するようになった。しかし、室町中期ごろまでに、生魚肉に鰭(ひれ)を刺す盛付法による「さしみ」が一般化すると、室町末期にはほぼ「さしみ」と同義で使われるようになり、「うちみ」はやがて廃れた。
よくはわからないんだけど、なんとなく「なるほど」。
この語誌で採用している説を自分にわかりやすくまとめると。
- 刺身はそもそも「打身」であった。
- 礼式に則った酒宴の席で出てくる生魚肉のことを「打身」と呼ぶようになった。
- 「打身」料理で洒落て(?)身にヒレを刺すことがはやり、ここから「刺身」の語が生まれた
そんな感じかな。ヒレを刺すのは、身だけにするとなんの魚だかわからなくなるからという話もあるそうだ。
なんとなく「日本の伝統」という感じのする「刺身」。室町時代に誕生したのだということで、確かに「伝統」。でもいかにも「作った」名前である「刺身」の語源がわからなくなっているというのはちょっと面白い。
- 作者: 玉村豊男,TaKaRa酒生活文化研究所
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