気になる言葉 on 国語辞典

つい気になった言葉など、辞書で引いてみる

死語にすべき言葉というものがあるか(辞書が「わからないように」記述する言葉とは)?

今、話題になっている漫画。ぼくは小学生の頃に読んで、その場でモドしてしまったり、その後も何度も夜中に起きてモドしてしまったりした。ひとつの事象の受け取り方は人それぞれだ。

現代「死語」ノート (岩波新書)

現代「死語」ノート (岩波新書)

それはともかく。「死語」にすべき言葉ってのはあるんだろうか。

あるとするならば、個人的に「かったい の 瘡(かさ)うらみ」なら候補になって良いかなと思う。ほとんどの辞書も同意してくれそうだ。

たとえば『日本国語大辞典』で「かったいの瘡うらみ」を見る。

大差ないものをうらやむこと。また、ぐちをこぼすことともいう。

これが記されている語釈のすべて。『大辞泉』第二版も同様だ。

大差ないものを見てうらやむこと。また、ぐちをこぼすことともいう。

なんのことかわからない。わからないのも当然だと思う。おそらく、これは辞書としても「わかってもらいたいくない」のじゃないか。

死語になったことわざ

死語になったことわざ

なぜ「わかってもらいたくない」のだと思うのか。たとえば「かったいの瘡うらみ」は「かったい」の項にあるが、「かったい」は空見出しで、何の説明もされていないのだ。「かたい」を見よとも書いていない。ただ「かたい」が転じた等と書いてあるだけだ。

ともかく「かたい」を『大辞泉』見る。

(1)こじき。ものもらい。
(2)人をののしっていう語。物知らず。ばか者。
(3)かつてハンセン病、また、その患者をいった語。かったい。

なんとなくわかってしまっただろうか。ただ、辞書的には詳細な説明をせずに流したい感じで、「わかってもらおう」という努力はしていない。

ハンセン病を生きて―きみたちに伝えたいこと (岩波ジュニア新書)

ハンセン病を生きて―きみたちに伝えたいこと (岩波ジュニア新書)

ぼかし続けていてもいやらしいので、続きを書く。実はこの「かったい の 瘡うらみ」は小型辞書の方がよくわかる。おそらく、あちこちに飛ばしてうやむやにしてしまう(?)ページ的余裕がないからなんじゃないかと邪推する。

『新明解』第七版から引こう。

「かったい」という語の語釈に「こじき」と並べて「もと、ハンセン病(患者)を指した語」という説明をして「かったいの瘡うらみ」を説明する。

自分より少しでもましな同類をうらやみたくなる人の心理状態

かなりすごいことを言っているが、まだ若干婉曲表現になっているだろうか。『岩波国語辞典』第七版・新版も見る。

江戸の性病―梅毒流行事情

江戸の性病―梅毒流行事情

こちらは「かったい」の語に「こじき」だとかの語釈はない。そのままずばり「ハンセン病」のことだとする。そして続ける。

「―の瘡(=梅毒)うらみ」(少しでもよいものを見てうらやむことのたとえ)

この言葉の背景にも、興味深い事実がたくさんあって、この言葉から得られる知的刺激は少なくない。

ただ、情けない気持ちになるし、あるいは吐き気を感じてしまったりする人もいるんじゃないかなと思う。

死語読本 (文春文庫)

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