Kindleで『半七捕物帳』などを読んでいる(青空文庫で読める)。先日読んだ『剣客商売』が思いのほか楽しめたので、続いて「時代小説」を読んでいる次第。
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こちらもまた、今となっては古くなってしまった言葉などが出てきて、それがかなり楽しい。たとえば「片口」。これを『明鏡』でみると次のようになっている。
かた‐くち【片口】
〖名〗 一方だけに注ぎ口のある鉢(はち)。また、長柄の銚子(ちょうし)。
これで全てだ。しかしこれだけでは、たとえば『お文の魂』(『半七捕物帳』の1)には次のような用例が出てくる。
「お前の片口かたくちばかりでは判らん。ともかくも小幡に逢って、先方の料簡りょうけんを訊いてみよう、万事はおれに任しておけ」
これは、『明鏡』のいう意味しかしらなければ、内容を理解することができない。実のところ「片口」にはいろんな意味があるようで、『日本国語大辞典』などは12個に分けて意味を説明している。
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『日本国語大辞典』は用例も面白いが、全部引くのはおおごとなので、『広辞苑』第六版をみる。それでも5つに分けて説明されている。
(1)片方の人だけの申立て。浄瑠璃、傾城反魂香「—の御裁断いかにしても軽々し」
(2)一方だけに注ぎ口のある器。特に長柄の銚子にいう。
(3)馬の差縄の左右いずれかの一方を引くこと。
(4)馬が一方に面を傾ける癖。また、その癖のある馬。
(5)片口鰯の略。
上に引いた『お文の魂』での用例はもちろん(1)の意味だ。恥ずかしながらこうした使い方を知らなかったな。
ちなみに『新明解』第七版でも(1)の意味に触れているが、「古風な表現」だと書いている。
ところで、「片口」を「青空文庫」サイト限定にして検索してみると(「片口 site:aozora.gr.jp」)、「片方だけの言い分」といった意味では岡本綺堂の作品が多くヒットする。岡本綺堂好みの表現であったということもあるのかもしれない。
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