気になる言葉 on 国語辞典

つい気になった言葉など、辞書で引いてみる

「池」とは自然の水たまりなのか、それとも人工に水をためたものなのかを巡る辞書間の戦い

「池と沼と湖の違い」はなんだろう、というのはメジャーな問いかけで、Googleってみればあちこちに答えがみつかる。

しかしそうでなく「池」自体を調べてみると、そこに「戦い」があることに気付かされる。

たとえば『新明解』第七版では次のようになっている。最初の語釈部分のみ引用。

川の水を引いたり、雨水を集めたりして、養魚・灌漑・上水などにあてる窪地。〔広義では、自然に出来たものを含み、その際は沼とほとんど同義。湖よりは小さく、沼よりは水が澄んでいるものを指すことが多い〕 

ここで肝心なのは「広義では、自然に出来たものを含み」の部分。つまり『新明解』の立場によれば、池とは「人工のもの」が基本であるわけだ。

ここで、勝手に「ライバル」と位置付けている『岩波国語辞典』第七版・新版をみてみよう。

地面に、ある程度の広さと深さとで、いつも水のたまっている所。大きな水たまり。…▷人工のものにも言う。

もちろんここでのポイントは「人工のものにも言う」の部分だ。「基本的には人工のもの」とする『新明解』に、「そうじゃなくて基本は自然にできた水たまりなんだよ」と真っ向勝負を仕掛ける。

この両者のライバル関係はなかなか胸を熱くさせてくれる。上野動物園で言えば「ラマ vs. カピバラ」のようなものか?

この戦いを「どうでもいいじゃん」と宥める立場の「大人」もいる。「大人」の代表として『日本国語大辞典』に登場願おうか。

(1)くぼ地に水が自然にたまった所。または、地面を掘ったり土手を築いたりして水をためた所。ふつう、湖沼より小さいものをいう。
(2)略
(3)刑務所をいう、盗人仲間の隠語。池底。

三番目の意味はこのさい関係ないのだけれど、面白いので載せておいた。大事なのは一番目。「自然にたまった所。または、地面を掘ったり」。要するに、大人の立場として「どっちでもいいじゃないか、そんなこと」と言うわけだ。

しかしなあ。自然ものなのか人工ものなのかというのは、産地偽装などが言われる現在としては大事なことでもあるのだけれどなあ。 

そんなことも思うけれど、とりあえず辞書を探ってみる程度では、どちらが正しいのだというような結論は得られない。

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