「一穴」という言葉を何度か聞いたことがある。『三省堂国語辞典』第四版を眺めるうち、ひさしぶりに出会った。
いっけつ 【一穴】
(名)
一つの便器で用をたす状態。
これはぜんぜんわからないな。第七版では少々書き足されているけれど、それでも「よくわからない」(本稿文末に追記あり)。
しかしわからないのは『三省堂国語辞典』の非ではない。『広辞苑』第六版をみてもよくわからない。
いっ‐けつ【一穴】
(1) 一つの穴。
(2) 大便所と小便所との区別のないもの。
(3) 灸をすえる場所一つの称。
(1)は「それがなんだ」だし、(2)はじゃあ洋式便所は一穴便所なのかという話だし、あるいはどういう文化圏で一穴便所という言葉が意味を持つのかと疑問になるし、(3)はまあ、灸のことだから関係ない。
こんな感じで「わからない」語釈があるか、あるいは載せていないのが普通の対応だ。こんなときに頼るのはやはり『新明解』ということになるんだろう。見てみると、第四版、第七版ともに期待に応えてくれた。
夜中なので言える。他の辞書がなかなか言及しない中、『新明解』ならではで頑張っている「一穴」。 #新明解 #辞書 #国語辞典 pic.twitter.com/zJWrRl9882
— maeda hiroaki (@torisan3500) 2014, 3月 8
やはり大便器と小便器についての言及があるけれど(これがどういうものを指すのかよくわからない)、2番めの語釈が、ぼくが実際に触れたことのある内容だ。
他にこの意味での「一穴」に言及した辞書はないかと見てみるけれど、なかなかみつからない。 今のところは『新和英大辞典』にのみ発見できている。
いっけつ【一穴】
〔便器の〕 a toilet bowl that serves for urination as well as defecation; 〔灸の〕 one of the effective points for moxibustion; 〔俗に, 妻以外の女性を知らない男〕 a one―woman man.▶ あいつは~主義なんだ.
He believes in being faithful to 「one woman [his wife].
使う人もほとんどいない言葉なのか、それとも下品であるということで載らないのか。どちらなのだろうと興味がわく。
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追記:
わかんねえなあという自助努力をしない奴のツイートを、『三省堂国語辞典』の編纂者である飯間浩明氏が目にとめてコメントして下さった。
「一穴式」「二穴式」というのは住宅用語(?)で、前者は便器がひとつ、後者は大便所(金隠し)と小便所(朝顔)とが分かれているもののようです。第7版では「一穴」の語釈を簡単にした代わりに接尾語「穴(けつ)」をいささかくわしくしました。@torisan3500 「一穴」の説明がよ…
— 飯間浩明 (@IIMA_Hiroaki) 2014, 3月 9
なるほど。ある種の「テクニカルターム」であるということなのかな。それであれば、調べようと思い立つ人も多少の背景的知識は持つわけだな。
ちなみにトイレが大小で分かれていたのはぼくの時代の田舎では「よくある」ことだった。わかれていないと「これじゃなくて朝顔の方だよ」と、「別の」トイレを案内させようとする人も多かったな。
ところでしょっちゅう言っているけれど、ぼくがカピバラに興味を持ったのは、この飯間浩明氏のおかげ。「なんじゃそりゃ」な方はぜひこちらを。