見坊豪紀の『ことばの海をゆく』を読んでいる。
少々古い(1976年)の本だけど、この「少々」の古さが一層面白い。
たとえば「幕開け」。「幕開け」は間違った言葉だと注記する辞書が多い様子。たとえば『新明解』第七版。
まくあき【幕開(き)】
(芝居で)幕があいて演技が始まること。〔物事の始まりの意にも用いられる。また、最近は誤った類推で「幕開け」と言う向きもある〕
しかし見坊豪紀によれば「幕が開く」ことを表現するのに「幕がひらく」場合(自動詞)もあれば、「幕をあける」(他動詞)もあるわけで、それならば「幕開け」もあるのではないかと解釈するとのこと。
『三省堂国語辞典』第四版を引く。
まくあけ【幕開け】
(名)
(1)幕をあける〔=始める〕こと。
(2)まくあき
『ことばの海をゆく』には次のように記されている。
現在「まくあけ」をちゃんと見出しに立てている小型辞書は『三省堂国語』第二版だけのようです。
これはなかなか面白い。
さらに面白いことに、『三省堂国語辞典』第六版になると(第五版は持っていない)「まくあき」のみ記されている。「まくあき」と「まくあけ」はもはや同様に正しい言葉として定着したので、「まくあき」と区別しなくても良いと判断したんだろうか。「正しさ」の度合いが上がって、主張についてはトーンダウンしてもよくなったのかもしれない。
NHKさかのぼり日本史(8)室町・鎌倉 “武士の世”の幕開け
- 作者: 本郷和人
- 出版社/メーカー: NHK出版
- 発売日: 2013/01/28
- メディア: Kindle版
- この商品を含むブログ (1件) を見る
ついでに、この本ででとりあげている言葉を列挙しておく。「あみだにかぶる」「すみやかに」「気のおけない」「マンハント」「世間ずれ」「コレクトマニア」「情けは人のためならず」「風雨同舟」「明らむ」「どまんなか」「千坪の豪邸」「うまくない」「幕開け」「幕間」「水をかける」「根回し」「義理のいとこ」「義理のおじ」「もらい事故」「もらい下げる」「着ないまま」「達しないまま」「様変わり」「保険つき」「あっけらかん」「おし迫る」「おし詰まる」「就眠儀式」「おぞましい」「通りがかる」「通りかかる」「一定の」「体制」「ハッシッシ」「リクレーション」「波紋を投げる」「幅寄せ」。