気になる言葉 on 国語辞典

つい気になった言葉など、辞書で引いてみる

「あなうさぎ」からクレームを受けたらしい『広辞苑』第三版

広辞苑』の第三版を手に入れた。はじめての「机上版」だ。1983年の発行。JRがまだ国鉄だった時代だ。これまた「ちょうどよい古さ」がいろいろ楽しめそうな辞書だ。

総革装 広辞苑 第六版 (机上版)

総革装 広辞苑 第六版 (机上版)

 

いろいろと見ておもしろがってみようと思っているけれど、ちょっと「あなうさぎ」を引いてみた。早速ヒットだ。

あなうさぎ【穴兎】
ウサギの一種。家兎の原種。ノウサギより四肢が短く、穴を掘って巣とする。子は穴の奥に産み、無毛で目が開かず弱々しい。南ヨーロッパ・北アフリカに分布し、草食。ラビット。

なるほど。この第四版は兎界でたいへん問題のある記述として広まってしまった。第六版では大いに書き換えられている。

あな‐うさぎ【穴兎】
ウサギの一種。カイウサギ(家兎)の原種。体長約40センチメートル。尾はきわめて短い。地面に巣穴を掘って生活。ヨーロッパ・北アフリカに分布。ラビット。

しっかり読めば、なぜ語釈が変わったのか、説明は不要だろう。

まず「足が短い」が「尾は短い」になった。これは「足が短い」という表現が差別的意図を持つことがあることに配慮したものだ。「尻尾が短い」なら個性として許容範囲。広辞苑編集部としては「尾も短いんだけど、他の突出部も短いことを察して欲しい」と思いつつ、差別表現を改めたのだ。

子供が弱い存在であることにも、やはり穴兎からクレームがついた。第三版の発売以来「それほどに弱い生き物ならチャンスだな」と、あらゆる動物から狙われることになってしまったのだ。あるいは「あなうさぎの子供より弱々しいものはたくさんいるだろう」というクレームも入っただろう。

 

往々にして古い辞書というのは差別的意識に対する配慮が薄いことがある。

 他の辞書ではどうだったかと『三省堂国語辞典』を見てみた。残念ながら「あなうさぎ」は載っていなかった。しかし「あな」の前方検索で探すと「穴馬」がある。ほう、馬にも「穴」居住性のものがいるのか?

もちろんそんなわけはなく、別の穴馬の話だった。

あなうま【穴馬】
(名)
〔競馬で〕番くるわせの優勝をする馬。あな。ダークホース

やはり、ちょっと穴には住めないよな。

ところで「第三版」。「発音主義」(?)を実践していて、たとえば「鼻血」は「はなじ」で探すようになっている。こういうあり方は「歴史的」なスタイルだと思っていたけど、そういうわけでもないのだな。 

nanoblock サンエックス コリラックマうさぎ&いちご NBH_071

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