気になる言葉 on 国語辞典

つい気になった言葉など、辞書で引いてみる

「大阪夏の陣」の「陣」は比喩なんだと思っていた(恥ずかしい)…

大阪冬の陣とか夏の陣てのがある。それはまあ、だれでも知っている。国語辞典(日本国語大辞典)にも「大坂の陣」として立項されている。

おおさか の 陣(じん)
徳川家康豊臣氏を攻め滅ぼした戦い。慶長一九年(一六一四)、家康は全国の大名を召集し、一一月に大坂城を攻囲(これを大坂冬の陣という)。翌月、外堀を埋める条件で和議を結んだが、約束に反して内堀までも埋め立てた。翌年四月に戦闘が再開され(これを大坂夏の陣という)、五月に豊臣秀頼とその母淀君は自殺し、大坂城も陥落した。

この「冬の陣」「夏の陣」の「陣」、ぼくはずっと「比喩的な用法」だと思い込んでいた。すなわち、戦うための集団が「陣」を張ったわけで、その「陣」を「戦(いくさ)」の比喩として用いたと思っていた。

大間違いだった。今日、国語辞典を引いてかなり驚いた。『広辞苑』を見る。

じん【陣】 
(1)兵士を並べ隊伍を整えること。また、その隊列。「鶴翼の—」「—立て」
(2)軍勢の集まり居る所。
(3)いくさ。合戦。「大坂夏の—」
(4)禁中の衛士(えじ)の詰所。また、そこに詰めている人。枕草子(8)「—のゐねば」。大鏡(師尹)「—に左大臣殿の御車や御前どものあるを」
(5)「陣の座」に同じ。
(6)衆僧の出入り口。徒然草「—の外まで僧都みえず」
(7)一群の集団。人々。「報道—」

「陣」には「いくさ」とか「合戦」という意味があるんだそうだ。比喩なんかじゃなかったのだな。

では「乱」とか「いくさ」とか「陣」ってのはどのように使い分けるんだろう、と疑問になる。わかりやすくまとめてくれているのは「【歴史豆知識】~の乱、~の陣、~の変など…なぜ戦の名称が違うのか?」。

そのサイトでは「陣」を「ある権力者の命によって、その傘下の勢力が義務的に参集した戦役です」としている。

激闘大坂の陣―最大最後の戦国合戦 (歴史群像シリーズ〈戦国〉セレクション)

激闘大坂の陣―最大最後の戦国合戦 (歴史群像シリーズ〈戦国〉セレクション)

 

ところで比喩の話をもう少々。

『死神の浮力』という小説がある。タイトルをきけば「浮力」が比喩だと思う人が多いと思う。しかし実は比喩ではない。

以前、ラテンアメリカ文学が流行したとき、筒井康隆ラテンアメリカ文学の中に比喩のようで比喩でない記述に驚いていたけれど、この『死神の浮力』はもっとわかりやすく驚くことができる。

死神の浮力

死神の浮力

 

考えてみれば、伊坂幸太郎も比喩のようであって比喩でない表現を多用する作家だな。「押し屋」は押すし、「首折り男」は首を折る。

比喩というのは言葉の力を活用するための技法だが、比喩のようでいて比喩でない表現は、現実の力を思い知らせるのに役立つ。