『三省堂国語辞典』で「蒸発」を見てみた。曰く「熱を加えられて」気体となることだとのこと。
確かに、蒸発するためには熱運動エネルギーを持っている必要があるけれど、果たして「蒸発」を国語辞典で説明する場合に「熱を加えられて」と記す必要があるのかどうか。
と、いうのは「蒸発」を辞書でひく場合、「沸騰」と区別したい場合が結構あるんじゃないかと思うからだ。
たとえば『日本大百科全書』は「蒸発」について次のように記している。
気化が液体の表面からおこる場合が蒸発であり、液体の内部からもおこる沸騰(ふっとう)とは区別する。沸騰は一定の圧力のもとでは特定の温度(沸点)でおこる。つまり飽和蒸気圧と外圧(大気圧など)が等しくなったときにおこるが、蒸発はいかなる温度でもおこる。
「蒸発」を定義するのに「熱を加える」と書いてしまうと、「沸騰」との区別が難しくなりはしないか。
たとえば『岩波国語辞典』は熱には触れない。
じょうはつ【蒸発】
〘名・ス自〙
液体がその表面で気化すること。「人間―」(まるで蒸発したように、ある人が不意にいなくなり所在不明となること)
『新明解』も「蒸発」について「熱を加えられたりして」と書いているけれど、「熱」を書かないほうがむしろわかりやすいんじゃないかと思う。
ところで冒頭に載せた『三省堂国語辞典』の「蒸発」。「家庭をすてて、行くえをくらますこと」という定義も面白いな。「家庭」を持ってなくても「蒸発」するケースはありそうだ。