「アート紙」ってのがどういうものか知らないのはぼくが馬鹿だからだ。
だが『広辞苑』の「アート紙」が理解できないのはぼくのせいばかりではないのではないか。
『広辞苑』第七版、「アート」の子項目として「アート紙」がある。
アートし【アート紙】
(〜paper)高級網版印刷・多色印刷用の用紙。炭酸カルシウム・カオリンなどの白色顔料に接着剤を混ぜて原紙に塗布し、スーパー・カレンダーで平滑にして光沢を出したもの。
これを完璧に理解する人は少ないんじゃないか?
「高級☓☓☓用紙」ってことで、なんとなく高級そうな紙なんだろうとは想像できる。そのあとの「カオリン云々」も、きっと素材のことを言ってるんだろう。
ここらあたりまでは、まだ「想像してみるぞ!」という気力がある。しかしその次でポキンと心が折れる。
「スーパー・カレンダーで平滑に」。
「スーパー」と「カレンダー」が並んでるのがわからない。なんとなく、スーパー・トランプとJガイルズ・バンドが頭の中で鳴り始めるけど、きっとそんなの関係ない。
「スーパー・カレンダー」ってのは、なにか「平滑」にするのに使うらしいけれど、「平滑」という言葉だって使い慣れず、果たして何がどのようになって出てくるのが「スーパー・カレンダー」なのかわからない。
「そんなときはGoogleだろう!」とGoogleってみても出てくるのは「2018年カレンダー」みたいなものばかり。
だめもとで『広辞苑』で「カレンダー」を引いてみた。するとアート紙を生み出す「カレンダー」も載っていた!
カレンダー【calender】
ローリング・ミルの一種。多数のロールを並べ、薄い材料を圧搾平滑にし、また艶出しをする機械。おもに抄紙機・捺染機・ゴム製造機などに用いる。光沢機。
calendarならぬcalender。そんなものが世に存在することも知らなかった。
抄紙機・捺染機・ゴム製造機がなんなのかまだわからないけれど、ともかくなんかロール(麺棒のようなもの?)状のものを指すみたい(「抄紙機」を検索してみるとイメージがつかめるかも)。
「なるほどねえ」とは、なんとなく思った。でも「アート紙」を説明するのに、ぜったい「カレンダー」に触れなくちゃいけないんだろうか。
たとえば『日本国語大辞典』をみてみる。
アート‐し 【─紙】({英}art paper の訳語)
すべすべして、つやのある厚めの印刷用紙。鉱物性の白い顔料を糊(のり)と混ぜて表面に塗ってあり、写真版の印刷などに用いる。アートペーパー。
説明としてはこっちでいいんじゃないかと思うな。ものごとをできるだけ簡単に説明しようとする『三省堂国語辞典』は次のような感じだ。
アートし【アート紙】
写真印刷などに使う、表面がなめらかでつやのある紙。アートペーパー。
ふむ。これでもぼくには必要十分だ。
まあしかし。「百科事典」的要素ももつという『広辞苑』。わからないことを並べてくれたおかげで、いろいろと楽しむことはできた。こんなこともまあ、『広辞苑』の魅力であるとは言えるかもしれない。
なお、おまけに『ランダムハウス英和大辞典』で「art paper」もみておく。
árt pàper
アート紙,アートペーパー:白土などを塗布乾燥して,スパーカレンダーなどで強い光沢をつけた紙.
あはは。こっちも「スパーカレンダー」なんていうわからない言葉を使っているな。もしかすると、辞書をつくる人は、紙のことととなるとどうしてもいろいろと言いたくなるのかもしれない。