気になる言葉 on 国語辞典

つい気になった言葉など、辞書で引いてみる

三国の「ルー」は偉いと思う。

「ルー」。ぼくがイメージしているのは「カレーのルー」の「ルー」だ。

ぼくの理解だと、「カレー・ルー」とは、「小麦粉や各種調味料を混ぜて固めたもの」という感じ。

我ながら下手な説明なので、国語辞典はどのようなすばらしい定義をしているのかとチェックしてみた。

まずは『日本国語大辞典』。全文を引く。

ルー
({フランス}roux )
バターで小麦粉をいためたもの。牛乳やスープで伸ばしてホワイトソースやブラウンソースにする。「カレーのルー」

ちょっとよくわからないんだよな。末尾に突如登場する「カレーのルー」という言葉の立ち位置もよくわからない。

ちょっとこれは不親切なんじゃないの、と『小学新国語辞典』に優しさとか、親切とかを求めてみた。

ルー
小麦粉をバターなどでいためたもの。料理でとろみをつけるのに使う。(例)カレーのルー。

ちょっと親切になったな。

でも「カレーのルー」って、「とろみをつけるのに使う」というか、(ぼくのイメージでは)「カレー・ルーこそカレー」というものだったりする。

「とろみをつける道具」ではなく、「カレーの主人公」が「カレー・ルー」のような気がするんだ。

広辞苑』ではどうなっているのか。

ルー【roux フランス】
小麦粉をバターで炒めたもの。ソースにとろみをつけるのに用いる。炒める度合いによって、白色・淡黄色・茶色の三種類に分かれる。また、カレー用などに固形にした市販のものもある。

これも全文を引いている。最後の「また、カレー用などに固形にした市販のものもある」という部分は、最新の第七版で追加された部分

一般的な「ルー」と、それとはちょっと違うものとして「カレー用」を定義している点では、ちょっとぼくの理解に近いのかもしれない。

ただ、「カレー用」の「ルー」にはさまざまなものが入っていて、「カレー本体」化していることには触れていないな。

ちなみに上に写真を掲載したカレー・ルーには次のようなものが入っている。Amazonの商品ページから引いてみる。

原材料:小麦粉、食用油脂(パーム油、なたね油)、砂糖、食塩、でん粉、カレー粉、ブラックペッパー、クミン、焙煎香辛料ペースト、コリアンダー酵母エキス、カルダモン、たん白加水分解物(ゼラチン)、赤唐辛子、ジンジャー、ガーリック、調味料(アミノ酸等)、着色料(カラメル色素、パプリカ色素)、酸味料、香料、(原材料の一部にごま、大豆、豚肉を含む)

こんだけのものが入っていることに触れずに、「ルー」ってのは「小麦粉を炒めたものだよ」とのみ説明するのはわかりにくいと思うな。

国語辞書の「ルー」定義はわかりにくいね、と結論しようと思った。だけど、やっぱり「そもそもなんなんだ」と直線定義を志す『三省堂国語辞典をみないわけにはいくまい。

ルー【フ roux】
(1)小麦粉をバターでいためたもの(を固めた製品)。スープや牛乳でのばして、ソース、ポタージュなどに仕上げる。「カレー―〔=カレー粉をまぜたルー。カレーライスのソースに使う〕」。
(2)〔俗〕〔カレーライスなどの〕ソース。

なんと! 完璧だ。ぼくが国語辞典にもとめた「ルー」の説明がパーフェクトにまとめられている。

他の辞書は「ルーってのはそもそもさあ…」という「権威主義」(?)から抜け出せない感じ。そんな中、『三省堂国語辞典』は「日本におけるルーとはそもそも何を指すのか」というところに立脚して説明を考えている。

三省堂国語辞典』の「直線定義」を「単純」に感じてしまうこともあるんだけど、この「ルー」定義はすばらしいと思う。

なお(2)の「カレーライスなどのソース」の意味は第七版から加えられたもの。「しっかり進化」を感じさせてくれる追記だな。

良い仕事を見せてもらいました。


基本のカレールウ 

カレーライスの誕生 (講談社学術文庫)
 
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