『新明解』の「地虫」をみてちょっと驚いた。全文を引いてみる。
え、そうなの? するってぇと、秋の季語である「地虫鳴く」ってのも、そいつらが鳴いてるの?
違うと思うがなあと、他の辞書にもあたる。『日本国語辞典』はどうだ?
じ‐むし[ヂ‥] 【地虫】
(1)コウチュウ目コガネムシ科に属する昆虫の幼虫の俗称。体は肉質の円筒形でC字形に体を曲げている。全体に乳白色で頭部は褐色を帯びる。地中にすみ、植物の根や腐植物を食べるので、農作物、樹木の害虫となるものが多い。ケラなど地中で生活する昆虫をも含めていうこともある。すくもむし。ねきりむし。入道虫。((2)および(3)は略)
冒頭部分を読んでちょっとびっくりしたね。『新明解』説をさらに強化するような書きぶりだ。「体は肉質の円筒形でC字型に曲げている」なんてのは「コガネムシ・カブトムシ・クワガタムシなどの幼虫」を指す、あまりに適切な言葉だもんね。
でも読み進めてみると「ケラなど地中で生活する昆虫をも含めていうこともある」としている。消極的(?)ながら、土中昆虫一般のことであるとしているわけだ。
ひと安心したものの、しかし「地虫」は本当に「体がC型になってるやつら」を指すのが通説なのか、しつこく疑問に思う。
そんなわけで『広辞苑』をひいてみた。
じむし【地虫】
土中にすむ虫の総称。また、特にコガネムシ科の甲虫の幼虫。体は円筒状、C字型で、尾端が曲がっている。土中にすみ、植物の草根を食害。すくもむし。ねきりむし。入道虫。
まず冒頭で「総称」であるとしているのをみて「Yeah!」な気分だ。
しかし読み進めると、「体は円筒状、C字型」とある。さらに「尾端が曲がっている」ともある。そんなに限定したら「総称」じゃないんじゃないか…
どうやら。国語辞典的には「地虫」とは、コガネムシの幼虫みたいなやつのことを言うのだというのが通説みたいだな。
「地虫泣く」の立場がないよなあと、ぼくはまだ悔しい^^。それで『日本大歳時記』もみてみたよ。
長くなるけれど、全文を引く。
地虫泣く
秋夜戸外に立っていると、地底から何かジーッと虫の声が連続して聞こえることがある。秋の夜らしい寂しい情緒があるので、古人は蚯蚓が鳴くとか、螻蛄が鳴くとか云ってそのあわれを句の主題とした。この季語の地虫も、そうした地中の昆虫の声を総称したものとみてよいと思うが、研究する人によって、この地虫とは金亀子(こがねむし)や鍬形虫や斑猫などの幼虫であると主張する人もある。しかし本当はこれらの幼虫には発声器はないから、恐らく螻蛄の鳴く声から生まれた空想の産物とみてよかろう。
文章をしっかりと追うとむしろ意味がわかりにくいけれど、「研究する人によって」という言葉からすると、別に「蚯蚓とか螻蛄とかに限ったものでもなかろう」という意味に思える。
ま、しかし。国語辞典の自信満々なところをみると、本来的には地虫とは、C型のやつらのことである可能性が高いのかな。
「だって地虫は鳴くんだよ!」と思っていた ぼくも、まあ「本来的には限定説だったと認めるのにやぶさかではない」感じではある。
カブトムシの蛹化(オス)10倍速 Beetle larva pupating;Natural science Video Footage