じじいなもので「逐電」という言葉は見知っている。昔の本なんかにはよく出てくるのだ。
たとえば芥川龍之介の『桃太郎』だ。
日本一の桃太郎は犬猿雉の三匹と、人質に取った鬼の子供に宝物の車を引かせながら、得々と故郷へ凱旋した。――これだけはもう日本中の子供のとうに知っている話である。しかし桃太郎は必ずしも幸福に一生を送った訣ではない。鬼の子供は一人前になると番人の雉を噛み殺した上、たちまち鬼が島へ逐電した。のみならず鬼が島に生き残った鬼は時々海を渡って来ては、桃太郎の屋形へ火をつけたり、桃太郎の寝首をかこうとした。
「たちまち鬼が島へ逐電した」。こんなふうに「逃げ去る」という意味に使う言葉だったはずだ。
ただ、わりと頻度高く出会うせいで、すっかり知っている言葉のつもりになってしまった。なぜ「逐」と「電」で「逃げる」になるのか。恥ずかしながら辞書にあたってみたこともなかった。
『日本国語大辞典』を引いてみた。
ちくてん 【逐電】
(「ちくでん」とも。いなずまを追う意)
(1)非常に敏速に行動すること。急ぐこと。
(2)逃げ去って行方をくらますこと。出奔。逃亡。失踪。」
(3)かみなり。
辞書はひくものだな、やっぱり。
今回辞書をひいて、はじめて「逐電」を「ちくてん」と読むのだと知った(「ちくでん」だと思ってた)。『広辞苑』も『日本国語大辞典』も「ちくてん」のみを見出しとしている。『三省堂国語辞典』などは逆に「ちくでん」のみを見出しとしている。
そして、「逐電」とは「いなずまを追う」という意味があったんだな。
確かに「逐」は「追う」という意味だ。
「逐」は会意。辶と豕とを合わせた字。辶は行くこと。豕はぶたのこと。逃げたぶたを追いかけることである。#漢字 via 『新選漢和辞典』
— maeda hiroaki (@torisan3500) 2019年6月5日
そこから転じて「出奔」とか「逃亡」という意味が出てきたんだな。ぼくは「逃げる」という意味しか知らなかったな。
まあ、それも一応正当なこと(?)であるよと、『三省堂国語辞典』を引いておこう。
ちくでん【逐電】
逃げ出して行くえをくらますこと。出奔。〔もと、ちくてん〕
現代人としてはまあ、「逃げること」の意味を知っておけばいいんじゃないのかな。安心して「逐電」を使うことができるね(^^)。
ところで「雷」といえば「イナズマン」。。。だけど、知っている人は何%くらいなんだろう。高齢化社会だからまだまだメジャーかな…。