気になる言葉 on 国語辞典

つい気になった言葉など、辞書で引いてみる

「無骨」は和語

「無骨」って言葉、人生で何度も使ったことがある。「洗練されていない」とか「無作法」ってな意味。

ぼくとしては、「洗練されてないけれど、それなりにスジが通ってる」というわりと肯定的な意味で使ってた。「いかにも漢語風」でちょっと格好良いし(笑)。

で。いまさらだけど、ぼくはいろいろと間違っていたらしい。

まず、「無骨」は(純粋な?)漢語ではないそうだよ。もともとは日本語の「こちなし」(骨無し)。全文全訳古語辞典には次のようにある。例文もわかりやすいので、全文を引かせてもらう。

 こち-な・し 【骨無し】
〔形容詞ク活用〕 《「骨」は作法の意。「こつなし」とも》
❶無作法である。ぶしつけである。
例「しひて言ふも、いとこちなし」〈源氏・手習〉

訳(食事を)無理にすすめるのも、たいそうぶしつけである。
❷無風流である。無骨(ぶこつ)である。優雅さがない。

例「こちなくも、聞こえおとしてけるかな」〈源氏・蛍〉

訳(私は物語を)無骨にもまあ、けなして申し上げたものだなあ。

そして、同辞書の「ぶこつ(無骨)」をみると、「『こちなし』にあてた『無骨』の音読み」であると記されている。もともとは和語だったんだなあ…。

「いかにも漢語風で格好良い」というぼくの思いは全くの的外れ^^。

さらに「無骨」には悪いニュアンスしかないみたいなんだよ。大辞泉を見てみる。

ぶ‐こつ【無骨/武骨】
《「骨(こち)無し」を音読みにした語》
1 骨ばってごつごつしていること。また、そのさま。「節くれだった―な手」
2 洗練されていないこと。無作法なこと。また、そのさま。「―な振る舞い」
3 役に立たないこと。才のないこと。また、そのさま。
4 都合の悪いこと。また、そのさま。

う〜ん。ぼくはなぜ「ぶこつ」を悪くないニュアンスで使い始めたのだろうなあ。どこかでそんな例をみたのか、それとも完全な誤解なんだろうか?

と、思いつつ「青空文庫」で「無骨」を検索してみた。すると、ぼくの使い方に近い例がたくさん見つかった。つまりぼくは、そういう文章をどこかで読んで、以来、真似をしているということなんだろう。

それは無骨なトルストイに比べると、上品な趣があると同時に、何処か女らしい答ぶりだつた。(「山鴫」芥川龍之介

とか

何處か無骨で、そしてそれが一種のいい稚拙感を出してゐて、これなら安心して味つてゐられるといふ氣がする。(「ハイネが何處かで」堀辰雄

あるいは

他の先生がたに比べてよほど書生っぽい質素で無骨な様子をしておられたことはたしかである。(「田丸先生の追憶」寺田寅彦

など。上のような「無骨」には「ネガティブ」だけじゃない意味がある。

数冊探してみたところでは、国語辞典で上のような「ネガティブだけじゃない」ニュアンスを載せているのはないみたいだ。なぜ、そういう記述がないんだろうな。ちょっと不思議な感じだ。 


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