どうしてだかわからないけれど。ぼくはずっと紀貫之の歌を「袖ひ『ぢ』て」だと覚えていた。
袖ひちてむすびし水の凍れるを春立つ今日の風やとくらん
これについて、たとえば次のような記述がある。
「ひつ」は近世以降「ひづ」になったが、他動詞「ひたす」と同源で、本来は「ひつ」と清音である。(小学館全文全訳古語辞典)
または『古語大辞典』にも以下のようにある。
鎌倉時代声点本も清音。下って、日葡辞書でも清音になっている。「ヒヅ」と第二音節が濁るようになったのは、「ひづつ(=泥水デヌレル)」と混乱させた賀茂真淵辺りからの誤解によるらしい。
ぼくは、なぜ「ひぢて」を学び、「ひちて」が全く記憶にないのだろう? てか、なんでぼくは今日まで「ひちて」(ひつ)ないし「ひぢて」(ひづ)を辞書で引いて見なかったのだろう。なんだかすごく不思議だ。