読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

気になる言葉 on 国語辞典

つい気になった言葉など、辞書で引いてみる

「知事」を引くと「現在は公選」とある意味は? 明治維新時代との比較かと思ったけどそんなわけはない。

社会 歴史

「知事」など辞書で引くまでもなかろう。と、普通は思うけれど、なかろうところに面白いモノが隠れていたりもする。 

ドキュメント副知事 猪瀬直樹の首都改造・一八〇〇日

ドキュメント副知事 猪瀬直樹の首都改造・一八〇〇日

 

たとえば『新明解』第七版には「現在は公選」とある。

ちじ 【知事】
〔「知」は、治める意〕

(1) 都道府県の主張。〔現在は公選。任期は四年〕
(2) 〔(禅宗の)寺院で〕寺務をつかさどる役僧

さらりと「現在は公選」と書くだけで、いつと比較した話なのか、全く触れてないのが面白い。 あるいは「それは当然の知識」という前提か?

まあ「現在」と比較のは過去。そうすると『大言海』あたりを見れば良いか。

知事
〔事務ヲ知(知ハつかさどる)ル意〕
(1) 事ヲ知ルコト
(2) 明治ノ初年ニ、府、藩、縣ノ長官。後ニ府縣ノ長官。
(3)〔寺院ノ事務ヲ司ル役僧。禪家ノ執事、東序、ナドノ類。
(4) 支那ニテ、地方(州、又ハ縣)ノ長官

確かに「公選」となる現在と、明治維新時代とは仕組みが異なる。でも現在の(小型)辞書に、こんな古い時代との比較は必要なかろうけれどなあ。

と、思っていたら『大辞林』第二版に答えを見つけた。

ちじ 【知事】
(1)都道府県の長。当該の都道府県を統轄・代表し、都道府県の事務およびその権限に属する国や他の公共団体の事務を管理・執行する。任期四年、公選による。明治以降、官選による地方官として設けられていたが、1947年(昭和22)地方自治法の制定により現行のものとなる。(以下略)

嗚呼、そうだった。社会科で習ったじゃないか。地方自治法の成立は「ごく最近」のことだったんだ。それならば、その時代と比較する記述があるのは当然のことと納得がいく。

小説にも官選時代の知事が出てくるものはきっとたくさんあるんだろうしな。

危うく「そうか、昔は知事じゃなくて大名だったもんな」なんて安易に納得してしまうところだった。

― 付記 ―
青空文庫Googleってみれば、たとえば坂口安吾の『傲慢な眼』という作品がヒットする(他にもたくさんヒットする)。冒頭からいきなり「旧制度」の知識が必要な内容だ。

傲慢な眼

傲慢な眼

 

ある辺鄙な県庁所在地へ、極めて都会的な精神的若さを持つた県知事が赴任してきた。万事が派手であつたので、町の人々を吃驚びっくりさせたが、間もなく夏休みが来て、東京の学校へ置き残した美くしい一人娘が此の町へ来ると、人々は初めて県知事の偉さを納得した。

「選ばれる」のでなく「赴任してくる」のであったな。

「引くまでもあるまい」という語を引いてみたときの方が、いろいろと思いがけない出会いがあって楽しい。