NHKの10min.ボックス。現代文や古文などが意外に面白い。「古典」作品を10分に徹底的に縮めて、かつ解説もする。
一時期はやった「超訳」などを遥かにこえた「暴力」的なほどにパワフル。
ちなみに10min.ボックスは理科や社会もある。でもそちらは勝手にテーマを絞れば良いだけの話。10分でできる話のみを対象にすれば良い。しかし国語系ではそうもいかない。漱石の「こころ」すら10分にまとめて、解説をしてしまうのだ。
夏目漱石『こころ』 2013年4月 (100分 de 名著)
- 作者: 姜尚中
- 出版社/メーカー: NHK出版
- 発売日: 2013/03/25
- メディア: ムック
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録画しておいた中から、今回見てみたのは『山月記』。もちろん青空文庫版もある(Kindle版も無料で手に入る)。
前に読んだはずなのに、最初の方から面白い言葉のオンパレード。 いきなり冒頭から辞書を引くことになる。
隴西の李徴は博学才穎、天宝の末年、若くして名を虎榜に連ね、ついで江南尉に補せられた
さて。「虎榜」(こぼう)ってのはなんだ。なんとなくわかる気はする。しかし『路傍の石』世代(?)としては、「傍」の字を含む「虎榜」の言葉の歴史的意味なども気になってくる。
ただ、じっくりと考えずに辞書を引いて反省した。
よく考えれば、語誌も含めて自力で解説できるはずの言葉だった。あまり載せている辞書はないようだが、『日本国語大辞典』を引く。
龍虎榜の略称。中国で、進士の試験の合格者を発表する掲示板。転じて、進士の及第者。
そう。「傍」の字は「五榜の掲示」の「傍」だ。すなわち、なにか掲げておく掲示板のことなのだ。そして「虎」とはずば抜けたものを指すのによく使われる言葉だ。
考えてみずに辞書に思い知らされてしまったのがちょっと悔しい。
ところで中島敦は、祖父が漢学者で父親は漢文の教師。それであれば、「自然に」漢文様の言い方も出てきたりはするはず。ただ『山月記』を見る限りは、「自然に」使っているというよりも、その言葉の面白さだとか、あるいは言葉の雰囲気を共有したいという「狙い」が現れてくるように思う。
『山月記』の元ネタは中国の話。中学生の頃は「モトがあるのならモトの方が優れてるんじゃないのか」なんて考えてた(「モト」を読むことはしなかったけれど)。ただ、トラになる背景のみならず、言葉選びの遊び心も含めて、『山月記』はとても面白い。