ふと思った。「苦肉の策」の「苦肉」ってなんだ?
「苦肉の策」ってのは、まあ「せっぱつまった状態で出すアイデア」みたいな感じだろうか。その中の「苦肉」が、いったい誰の肉なのかよくわからない。アイデアを出したがゆえに、むしろ我が身が苦しくなるとかそういう意味なんだろうか。
そう思いながら『ベネッセ表現読解国語辞典』を見てみた。
苦肉の策
苦しい局面をなんとかするために、自分の不利益や十分な結果が望めないことを覚悟の上でしぼり出した計略や手段。
「一発逆転を狙う捨て身の作戦」ということだろうか。
「捨て身」ではなく「深謀遠慮」なのだとする辞書も多い。たとえば『岩波国語辞典』をみてみる。
くにく【苦肉】
敵などをだますために、自分を苦しめてかえりみないこと。「―の策」(せっぱつまってとる手段)。
敵を「だます」のだ。「苦しい局面」であるかどうかは別として、積極的な(だますという)意図をもってプランするのが「苦肉の策」であるとのこと。
『広辞苑』も「苦肉の策」の方はちょっと何をいっているのかよくわからないけれど、「苦肉」については以下のように記されている。
くにく【苦肉】
敵を欺く手段として自分の身を苦しめること。
すなわち「苦肉の策」にもやはり、「敵を欺く」という深謀遠慮があるという立場なのだろう。
いろんな辞書をみてみると、どうやら「深謀遠慮」派の語釈が多いみたいだ。『日本国語大辞典』も見ておこう。
「苦肉の策」は「苦肉の謀」への空項目となっている。
くにく の=謀(はかりごと)[=謀計(ぼうけい)]
敵を欺く手段として、わが身を苦痛におとしいれてまで行なうはかりごと。また、一般に、考えあぐねてやっとひねり出した方策。苦肉の計。苦肉の策。
後半は「捨て身」派にも通じるような語釈だが、まずは「敵を欺く手段」と記しており「深謀遠慮」派とみて良いだろう。
ちなみに『三省堂国語辞典』の「苦肉の策」もなかなかおもしろい。「苦肉」の子項目だが、「苦肉の策」のみを転載。
苦肉の策
自分を犠牲にするほどの、苦し紛れの策。
「捨て身」派に近いが、こちらは「社会正義のため」というように解釈できそう。ただこれは一般的な「苦肉の策」感からは離れてしまうだろうな。
結局よくわからなかったけれど、「深謀遠慮」から「捨身」に、いつしか意味が変遷した語なのかもしれない。