『岩波国語辞典』を眺めていると「レスリング」にいきあたった。
レスリング
二人の競技者が、相手の両肩をマットに押し付けようと争う競技。
これはまったくわからんのじゃないかと思う。
オリンピックでは「バックをとったー」とか「得意のタックル!」とか「アンクルフォールド、決まった〜」なんてアナウンスがあった。そんなアナウンスと、上の語釈がなかなか結びつかない。
まあ他の辞書も似ている。『新明解』はこんな感じ。
レスリング
二人の競技者がマットの上で素手で取り組み、相手の両肩を同時にマットにつけた者を勝ちとする競技。
「素手」という新情報が加わったけれど、その情報で分かりやすさが増したかどうかは微妙だ。「取り組み」という新しいタームも出てきていて、よけいわかりにくいかもしれない。
それに、そもそも「相手の肩をマットにつけたら勝ち」なのか?
『三省堂国語辞典』は「そうだけど、なんか問題ある?」と主張する。
レスリング
〔マットの上で〕ふたりが組み合い、相手の両肩をマットにつけることを争う競技。
「ちょっと違うんじゃねえのか?」というのは『広辞苑』だ。
レスリング
格技の一つ。二人の競技者がマット上で立技(スタンド)・寝技(グラウンド)で格闘し、寝技で相手の両肩を1秒間マットにつければフォール勝ちとなる。グレコローマンスタイルとフリースタイルとがあり、体重により男女7階級に分かれる。
「1秒つけるのだ」という新情報が入った。これはけっこう重要な情報だ。「つければよい」のと「1秒間つける」では大違い。この点は『広辞苑』が親切かな。ただ、スタイルとか階級を半端に追記したのは「蛇足」な感じもする。
そもそも「レスリング」というものの理解に役だっているかどうかも疑問だし。
『広辞苑』と同じような内容を記しながら、読者の「理解」を助けようと意図しているようなのが『日本国語大辞典』だ。
レスリング
直径九メートルのマットの上で、二人の競技者が、互いにわざを出しあって、相手の両肩をマットに一秒間おさえつけることによって勝敗を決める格闘技。グレコローマンスタイルとフリースタイルとがあり、競技者の体重によって階級を分ける。
短い説明の中で、「スタンドとグラウンド」などは必要なしとした判断は正しいと思う。また、階級が分かれることのみを記して「7階級」としなかったのも正しそうだ。競技場の広さへの言及も、必要なものだろう。
と、いうわけで『日本国語大辞典』の語釈が一番好きではある。でも、「レスリング」を見たことのない人がこれを読んでもわからないだろうな。「プロレス」と「レスリング」の違いもわからずに辞書を引いた人は、よけいにわからなくなったりするかもしれない。
スポーツを辞書で説明するのは難しい話だ。しかし五輪で大活躍する競技ではある。もう少し、頑張ってくれても良いのかなあと思ったりはする。
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